水循環の明るい水来(みらい)へ「高橋裕先生宅の雨水利用」
1.はじめに
東京大学名誉教授の高橋裕先生は、河川工学がご専門で、
流域治水の礎を築かれた方として有名です。
平成3年5月26日、94歳にて永眠されました。
生前、世田谷のご自宅で雨水利用施設と浸透トレンチを設置して、
30年以上に渡って、雨量、雨水利用量などの計測を続けておられました。
今回はその成果をご紹介致します。
2.施設の概要
図―1に施設の概要を示します。
屋根の片側半分に降った雨は、雨どいを流れ、スクリーンでろ過した後、
貯水槽に流入します。貯水槽に貯まった雨水は、家屋の1F,2Fにある
トイレの洗浄水に使われます。
雨が降らない日が続き、貯水槽内のトイレ洗浄用の雨水が不足する場合、
自動的に井戸水を汲み上げるシステムが作動して、不足分を井戸水で
補充します。逆に雨が降り続き貯水槽の容量を越えると、
オーバーフローした雨水は隣の浸透槽に排水されます。
浸透槽に流入した雨水は、充填砕石を通過して地山に浸透します。
更に浸透しきれなかった雨水は、宅外の道路のU字溝に排水されます。
このように、雨水利用と地下浸透の二重構造になっているので、
宅外への雨水排水量は30数年の間で、ほとんどゼロであったようです。
図1 施設の概要
図2は1985年~2017年の33年間の年間降水量の推移を示しています。
33年間の平均値は1,611.1mm/年となっています。
図2 1985年~2017年の33年間の年間降水量の推移
(雨水貯留浸透技術協会保有データ)
図3は1985年から2017年の33年間の年間雨水使用量の推移を示しています。
雨水使用量は、トイレの水洗使用量から雨水不足時の井戸からの補給量を
差し引いた値となっています。
年間雨水使用量の33年間の平均値は83.4m3/年となっています。
図3 1985年から2017年の33年間の年間雨水使用量の推移
(雨水貯留浸透技術協会保有データ)
図4は、雨水捕捉率と雨水利用率の1985年から2017年の33年間の年毎の推移を
示しています。雨水捕捉率とはトイレの洗浄に使われた雨水について、雨水降水量のうち、
雨水をトイレ洗浄に利用できた割合を示しています。
33年間の平均で45.2%となっています。
また、雨水利用率とはトイレの洗浄に使われた雨水について、
雨水を利用できた割合を示しています。33年間の平均で69.4%となっています。
図4 1985年から2017年の32年間の雨水捕捉率、利用率の推移
(雨水貯留浸透技術協会保有データ)
表1は、本施設の雨水利用によるコスト削減効果を示す計算結果です。
この結果によると雨水利用により節約できた金額は33年間の平均で月額1,000円、
年間12,000円となっています。
この計測システムの設置工事金額、維持管理費が不明なので、どの程度の年月で
償却出来るかの判定は出来ませんが、あまり得をするような話ではなさそうです。
個人住宅での雨水利用は、小規模のためあまり水道料金の節約にならないようです。
例えば東京ドームのような雨水を大量に集水して、多数の観客が水洗トイレを使用する
場合には、コストの節約につながるものと思われます。
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