水循環の明るい水来(みらい)へ「メコン川源流から河口まで」
1.はじめに
東南アジアで一番長い川と言えばメコン川です。中国チベット高原に源流を発し、雲南省を通り、ミャンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境を流れ、カンボジアからヴェトナムを通過、南シナ海に流れ込む、全長4200kmの国際河川です。
筆者は、2006年5月12日から20日にかけて、メコン川に沿って調査旅行を行いました。本コラムはその報告です。
2.経路
図1は、メコン川と旅行立ち寄り先を示しています。源流は、チベット高原で、その後雲南省を経て、ミャンマー・ラオス国境を流れますが、この中国上流地域は、交通の便も悪く、また、必ずしも治安が良いとは言えず、とても我々が旅行できる地域ではありませんでした。近年、ヴィエンチャンと中国を結ぶ鉄道が開通して、現在はかなり交通の便が良くなっているようです。

図1 メコン川に沿った立ち寄り先
そこで、この上流地域を省略して、バンコクからタイ国内便でチェンラーイに飛び、メコン川を渡り、ラオス側の町ファイサーイから船でメコン川を下りました。
まず、ラオスの古都ルアンパバーンを目指します。

写真1 ラオス側の船着き場ファイサーイを出発

写真2 焼き畑農業の様子
両岸には写真2のように、時々焼き畑農業が行われている様子が見られます。焼き畑農業とは、作物を栽培・収穫した後に農地を焼き払って地力を回復させる農法です。熱帯から温帯にかけて、伝統的に古くから行われています。焼け跡は肥料を使わずに、農地として農作物を育て、地力が低下したら休耕して別の土地に移動します。生産能力は低く、現代においては伝統文化として僅かに残っています。
写真3は、ルアンパバーンの船着き場です。ラオスの有名な古都の船着き場としては、本当に素朴な階段があるだけの小さな船着き場でした。

写真3 ルアンパバーン船着き場
1353年、ラオ族による初の統一王朝ランサーン王国が成立した時の古都がルアンパバーンです。1995年に街全体がユネスコの世界遺産に登録されています。街全体が当時の様子を保存しており、当時の雰囲気を味わうことが出来ます。
その後、陸路下流の首都ヴィエンチャンへと移動しました。ヴィエンチャンの2015年時点の推計人口は82万人で、一国の首都としては、小さな町と言えます。メコンを隔てて対岸はタイのウドンターニー県となっています。写真4は、フランス植民地時代の名残り、パリの凱旋門を模したヴィエンチャンの凱旋門です。元々ラオスには鉄道がありませんでしたが、1994年にタイ=ラオス友好橋としてメコン川に、ヴィエンチャンとタイのノンカイを結ぶ橋が出来、ほんの短い区間ですが鉄道が敷設されました。更に2024年7月、タイの首都バンコクとラオスの首都ヴィエンチャンを結ぶ国際列車の運行が始まりました。

写真4 凱旋門
ヴィエンチャンを過ぎるとメコンは南へ向かい、パークセーを経由して、カンボジアとの国境にあたるコーンの滝に至ります。パークセーは、人口約10万、ラオス第2の都市です。コーンの滝までは、河はおおよそタイーラオス国境に沿って流れます。
コーンの滝は図2、写真5に示すように高低差こそ20m程で小さいですが、幅は10kmを超え、世界で最も横幅が広い滝とされています。多くの中洲に仕切られて多数の流れを形成しており、右端の流れが写真5のコーンパペンの滝です。この滝の高低差は小さいですが、船の行き来の妨げになっており、メコンの舟運がここで途切れることになります。

図2 コーンの滝付近の看板による説明図

写真5 コーンパペンの滝
コーンの滝を通過した後、カンボジアに入って、首都プノンペンを通り、更にヴェトナムに入り、最後にメコンデルタの町カントーから南シナ海に流れ出ます。

写真6 メコンデルタの町カントー付近のメコン川
3.国際河川としての課題
メコン川は、中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ヴェトナムを流れる国際河川です。そのためお互いに連携して、より良い川づくりに取り組むために、国際機関としてメコン委員会を設立して、協力体制と調査研究を進めています。
最上流に位置する中国では、石炭への依存を減らし、再生可能エネルギーを増やす方針に基づき、1995年以降、メコン川で10数基のダムが建設されました。うち5つは、それぞれ100メートル以上の高さがある「巨大ダム」です。中国はメコン川に流れ込む支流にも、少なくとも95基の水力発電用ダムを建設済みで、今後も数十基の建設を予定しているとのことです。また、メコン川下流にある他国でのダム建設事業への資金援助も行っています。
これらのダムによる下流への影響は、治水、利水、環境等多岐にわたっています。乾期に発電のため貯水池から放水することで「通常の2─3倍の水量」が流れる一方、雨期は放水制限によって流量が半分以下に減る可能性もあると言われています。メコン川流域で計画されているダムが全て建設された場合、川の堆積物が上流で閉じ込められるため、同地域の主食であるコメの栽培に影響を及ぼしかねないと複数の研究で予測されています。また、魚の生息環境にも影響を及ぼし、漁獲量の減少も招いています。
これらの課題を解決するには、上下流、流域でのステークホルダー(利害関係国)間の調整が必要となりますが、国際間の調整となりますと、より困難が伴うことになります。
4.トンレサップ湖
メコン川にカンボジアの首都プノンペン付近で合流するトンレサップ川の出発点に当たるトンレサップ湖について紹介します。この湖は、クメール王朝の有名な遺跡、アンコールワットのすぐ近くにあり、多くの水上生活者が暮らしています。乾季にメコン川の水位が下がり、湖の面積は琵琶湖の4倍程度しかありませんが、5月半ばから11月半ばの雨季になると、メコン川の水位が上昇して、トンレサップ川の水が逆流して湖の面積が約6倍に膨れ上がります。

写真7 アンコールワット正面

写真8 トンレサップ湖の浮き水上教会(水上生活地域)







