水循環の明るい水来(みらい)へ「地下水の利用」
1.地下水の水資源としての特性
元筑波大学教授 山本荘毅によれば、
水資源としての地下水の特徴は以下のように整理されています。(参考文献1)
① 地下水はどこにでもあり、その量は多い
② 循環の速さは非常に遅い
③ 地質条件における場所的差異が非常に大きい
④ 地表水と地下水との間に交流がある
⑤ 水質があまり変化しない
⑥ 水温が一定である
⑦ 水利権がない
⑧ 環境の重要な構成要素である
地下水の特性に関する世論調査によれば、地下水の恒温性についてのイメージが強いとの結果があり、
これは湧水や井戸水等のイメージが影響していると考えられます。
また、地下水汚染、地盤沈下や塩水化等の地下水障害に対するイメージも強く、
これらの社会問題化が影響しているとも考えられます。
2.地下水の利用用途
地下水の利用用途は、図1のように整理されます。
現在、地下水は、生活用水(飲料用、調理用、浴用等)、工業用水(飲食品製造用、原料用、洗浄用、冷却用等)、
農業用水(農作物栽培用、温調用等)、養魚用水等、各種の用途に利用されています。
また、この他にも、都市蓄熱(ヒートポンプ、ヒートパイプ等)や、湧水公園等の環境用水といった地下水には
多様な用途があります。
図1 地下水特性から見た用途の分布
【資料】国土交通省水管理国土保全局水資源部「日本の水資源」(2013年)
3.水資源としての地下水の今日的課題
水資源としての地下水の今日的課題としては、下記するように、
①気象条件に左右されて変動する揚水量、②新たな地下水ビジネスの台頭、
③地下水上昇に伴う地下構造物内湧水量の増加、さらには、
④災害時の非常時水源としての需要、が考えられます。
①と②に関し水循環という観点から言うと、揚水対象帯水層の浅・深の別なく
相互に影響しあうことと、揚水量に見合う涵養量の補填が必要であるところに
留意する必要があります。
① 気象条件に左右されて変動・増加する揚水量
農業用の水利用は年間でも夏季に集中することが知られており、著しい渇水年の特に夏季には
農業用や冷房用の水需要が増大しこれに伴って地下水揚水量が目立って増加します。
また一部地域では、豪雪時に消雪用地下水利用量の増大がいまなお生じています。
地盤沈下は総じて沈静化の方向にあるものの、こうした限度以上の地下水揚水がある年には
季節的に顕著な沈下の発生が確認されています。
特に近年の渇水は、頻繁かつ大規模になる傾向があり、気象条件に左右されないような地下水の
保全・利用の方策が求められています。
また、地下水利用の季節的集中の改善にも十分に留意する必要があると考えられます。
② 新たな地下水ビジネスの台頭
地下水ビジネスとは、病院、スーパー、ホテルなどで自前の井戸を設け水源確保することを指します。
水源確保と水の安定供給を図ってきた水道行政と規制の隙間、企業/事業所のニーズ、病院という
社会的使命等々がからみあい、実績が確実に増えています。
1施設の域であれば問題は顕在化し難いが、これが多数まとまると相当規模の揚水となり、地盤沈下の
再度の進行を引き起こしかねません。このことは、地下水の保全・適正な利用を一層熟慮すべき時期が
到来していることを示すもので、従来にはなかった新たな局面の展開と言えます。
③ 地下水上昇に伴う地下構造物内湧水量の増加
近年の首都圏都心部の地下水位上昇に伴い、鉄道地下駅やビル地下室などの地下構造物への漏水が
増加していることが知られています。
一部、鉄道地下駅への湧水を池や河川に流して河川環境(ひいては水循環)の改善を目指す試みも
始まっていますが、他の多くの施設では直接下水に排水している現状と考えられることから、
一層の水循環改善のため、その有効利用を図る必要があります。
④ 災害時の非常時水源としての需要
災害時のライフライン確保の一環として、一部の自治体では、震災用井戸の確保・設置が進んでいます。
こうした取り組みを、全国で体系的に実施するような方向付けが求められています。
(参考文献)
1)山本荘毅:現代における地下水の諸問題、地下水と井戸とポンプ、1981